当科の研究
当科の研究について
当科では、治療応用を目的とした問題解決型研究、基礎と臨床の双方向的研究、エビデンスの創出と発信をモットーに、“社会へ貢献できる外科研究”を目標として、診療科一丸となり研究に取り組んでいます。上部消化管外科、下部消化管外科それぞれで研究テーマを設定し、臨床研究、基礎研究に従事しています。研究グループでのウィークリー・リサーチカンファレンスに加え、総合外科全体における大学院セミナーや定期的な研究会を行うことにより、質の高い研究推進に努めています。また、得られた研究成果は、国内外での学会発表、さらには質の高い国際誌において論文発表できるよう、努力しています。
消化管外科 主な臨床研究テーマ一覧
臨 床 研 究 上 部 消 化 管 | 食道癌に対するDCF-RT療法の治療成績に関する検討 |
切除不能進行・再発食道扁平上皮癌に対するNivolumab療法の治療成績と安全性、治療効果予測バイオマーカーに関する検討 | |
進行・再発胃がんに対するNivolumab療法の治療成績とその臨床病理学的特徴の検討 | |
上部胃癌および食道胃接合部癌に対する内視鏡外科手術におけるリンパ節郭清手技及び再建法の現状とQOLを含めた長期成績の検討 | |
進行胃癌に対する内視鏡外科手術の周術期成績の現状および予後因子の検討 | |
食道癌手術症例における口腔内衛生状況と治療成績に関する検討 | |
胃癌および食道胃接合部癌に対するICG蛍光ナビゲーション併用腹腔鏡下手術の有用性に関する研究 | |
上部消化管癌患者における体脂肪量・筋肉量の意義に関する研究 | |
切除不能胃癌に対する化学療法および集学的治療の治療成績と予後予測因子の検討 | |
治癒切除不能進行・再発胃癌および食道胃接合部腺癌に対する集学的治療の現状と臨床病理学的予後予測因子の検討 | |
切除不能進行再発胃癌に対する一次治療において化学療法+Nivolumab使用症例に関する多施設調査 | |
食道癌リンパ節転移予測の指摘cut-off値、指標に関する検討 | |
DELICATE study (Duodenal stump leakage after gastrectomy for gastric cancer: a multicenter retrospective study) 胃癌術後十二指腸断端縫合不全に関する多施設調査 | |
食道癌・食道胃接合部癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の治療成績、安全性、後治療に与える影響に関する検討 | |
咽喉頭食道領域における腐食性損傷(caustic injury)に関する全国実態調査 | |
NCD研究:術前腎機能が食道切除術後短期成績に与える影響についての検討 | |
NCD研究:National Clinical Databaseを利用した残胃癌手術における低侵襲手術の実態および合併症リスク因子の検討 | |
JCOG2203 食道胃接合部腺癌に対する DOS or FLOT を用いた術前化学療法のランダム化第 II/III相試験 | |
JCOG2206:術前化学療法後に根治手術が行われ病理学的完全奏効とならなかった食道扁平上皮癌における術後無治療/ニボルマブ療法/S-1療法のランダム化比較第III相試験 | |
JCOG1904:Clinical-T1bN0M0 食道癌に対する総線量低減と予防照射の意義を検証するランダム化比較試験 | |
JCOG2013 臨床病期 I-IVA(T4 を除く)胸部上中部食道扁平上皮癌に対する予防的鎖骨上リンパ節郭清省略に関するランダム化比較試験 | |
臨 床 研 究 下 部 消 化 管 | 腹腔鏡下直腸癌術後性機能障害に関する多施設前向き観察研究 (the LANDMARC Study) |
ストーマ周囲皮膚障害をはじめとしたストーマ関連合併症の発症時期および頻度に関する多施設共同前向き観察研究 | |
直腸癌手術における適切なCircumferential resection margin (CRM)とDistal Margin (DM) に関する多施設前向き観察研究 | |
BRAF 変異型大腸癌に対するBRAF 阻害薬併用療法 のバイオマーカー探索を含めた観察研究 (BEETS 試験) | |
局所進行大腸癌に対する治療成績と予後予測因子の検討 | |
小腸癌に対する治療成績と予後予測因子の検討 | |
直腸癌の術前MRI画像と病理評価や分子マーカーに関する研究 | |
大腸癌術後機能に関するアンケート調査 | |
病理学的壁深達度T4大腸癌根治手術症例における腫瘍サイズと予後の検討 | |
小腸・大腸神経内分泌腫瘍に対する治療成績と予測因子の検討 | |
大腸がん手術症例における腹壁瘢痕ヘルニアの発症リスク因子の検討 | |
高齢大腸癌症例の術後癌薬物療法の有効性と安全性の検討 | |
直腸癌の病理学的側方リンパ節転移と関連する術前因子の検討 | |
直腸悪性腫瘍手術における経肛門アプローチ併用の有無と治療成績の検討 | |
大腸腫瘍術後の癒着性腸閉塞の検討 | |
緊急手術時の消化管ストーマ造設に伴う手術手技 と治療成績の検討 | |
炎症性腸疾患に対する治療成績と予後予測因子の検討 | |
高齢大腸癌症例の予後に関連する術後筋肉量減少 とその要因 | |
扁平上皮癌および管内型・管外型肛門管癌の治療成績の検討 | |
消化器癌における腫瘍関連糖鎖抗原の予後マーカー、治療感受性マーカーとしての有用性に関する検討 | |
腸内環境を考慮した大腸癌の個別化医療・予防法の確立 | |
オンライン教材とe-learningを使用した鏡視下縫合・結紮トレーニングの検討 | |
オンライン教材を使用した結紮実習の検討 | |
切除不能大腸癌に対するトリフルリジン・チピラシル+ベバシズマブの従来法と隔週法の実用的ランダム化第Ⅲ相試験(PRABITAS) | |
大腸癌術後補助化学療法の早期減量/延期例のリスク因子およびその予後への影響の検討 | |
大腸癌におけるL-type amino acid transporter1 (LAT1)発現と予後、治療抵抗性の検討 | |
絞扼性腸閉塞におけるICG蛍光法による血流評価 多施設共同前向き観察研究 | |
経肛門的直腸間膜全切除術併用括約筋間直腸切除術における器械吻合の優越性を検証する多施設共同無作為化比較試験 | |
ストーマ造設症例を対象としたインタラクティブラーニングを用いた術前患者教育の有用性に関する前向き観察研究 | |
微量元素濃度・腸内細菌叢・microRNA解析を用いた大腸癌診断に関する研究 | |
内視鏡外科手術におけるAI自動技術評価システムの構築 | |
消 化 管 外 科 基 礎 研 究 | 食道扁平上皮癌におけるTIF1γの発現意義と機能の解明 |
腫瘍環境における成熟TLSが及ぼす影響と化学療法との関連 | |
胃癌に対するスタスミン1をターゲットとした新規治療薬の開発 | |
食道がんにおけるDNA修復経路に着目した抗腫瘍免疫最適化の研究 | |
Colitic cancerにおけるDNA2重鎖切断修復に伴うシグナル発現の解析 | |
大腸癌におけるβアドレナリン受容体発現と化学療法への影響の解明 | |
進行大腸癌におけるトランスフェリン受容体の発現意義 | |
HSP阻害剤/温熱療法と免疫療法の併用効果の検証 |
消化管外科 基礎研究
研究の背景
食道がんは他の消化器がんと比べ発症率は高くないものの、5年生存率は40-50%と予後不良な悪性腫瘍です。また胃がんは5年生存率は60-70%と治療成績は比較的良好なものの、本邦では依然として死亡数、罹患数ともに多い疾患であり、共にさらなる予後の改善が求められる疾患と言えます。さらなる予後および治療成績の改善を目指して、基礎研究、臨床研究をさらに充実させ、新たな治療の開発も積極的に行っていく必要があると考えています。
下部消化管領域においては大腸がんを中心に小腸がん、炎症性腸疾患、肛門良性疾患、腹壁疾患などの治療に従事しています。全国がん登録(2023年)では、大腸がんの罹患者数は各種がんのなかで1位であり、死亡者数においても2位となっています。小腸がんは稀ではありますが、早期発見が困難であり進行した状態で発見されることが多いがんです。また近年、炎症性腸疾患の罹患者数は増加の一途を辿っており治療が必要な患者さんの数は増える一方です。このような下部消化管領域の疾患に対して診断、治療を行うだけでなく、さらなる治療成績の向上を目指して過去の治療成績の検討を行ない、新たな治療方法の検討・開発を行っております。またこれらの疾患は病態が未だ解明されていない部分も多く、より深い病態の解明と新規の治療標的の発見が待たれています。こうした様々な課題に対して全国規模の多施設共同研究や当科独自の基礎研究や臨床研究に取り組んでおります。
研究内容
①HSP阻害剤/温熱療法と免疫療法の併用効果の検証
腫瘍免疫応答を利用した免疫療法(ICI)による治療は、悪性腫瘍細胞の根絶に威力を発揮することが期待され、難治性である治癒切除不能進行消化管癌に適応となっています。しかし問題点として、治療前に細胞傷害性T細胞が腫瘍内に浸潤していない腫瘍塊、いわゆるCold tumorには治療効果を示さないことが挙げられます。そこでDNAダメージ誘導(温熱、抗がん剤、放射線など)を利用しCold tumorをICIが薬効しうるHot tumor(免疫原性が高く炎症細胞浸潤が活発な状態)に変換させる治療戦略が注目されています。本研究の目的は、温熱治療によりCold tumorをHot tumorに変換できるかのメカニズムを解明して、消化器癌担癌モデルマウスを用いて、温熱治療によりICIの治療効果が増強可能かを解明することであります。
②食道扁平上皮癌におけるTIF1γの発現意義と機能の解明
TIF1γはTRIMタンパクファミリーの一つで、Ring-fingerドメインを有し、E3ユビキチンリガーゼとしての機能が知られています。TIF1γはTGF-βシグナルにおいて、Smad4をモノユビキチン化し、Smad2/3と結合することでシグナル制御に関与しています。TGF-βシグナルは癌の発生や進展に重要な役割を果たしていることから、腫瘍形成におけるTIF1γの役割に注目が集まっています。TIF1γは癌腫により機能や発現の程度は異なりますが、食道癌においてはTIF1γに関する報告がこれまでありません。当科における研究では、我が国で約90%の組織型を占める食道扁平上皮癌に焦点を当て、TIF1γの発現意義とその機能を明らかにすることを目的とし、検討を行っています。
③食道がんにおけるDNA修復経路に着目した抗腫瘍免疫最適化の研究
食道がん治療で用いられている放射線療法やDNA傷害性抗がん剤は、がん細胞にDNA二重鎖切断をもたらします。DNA二重鎖切断は、主に非相同末端結合・相同組換え修復という2つの経路で修復されます。RAD51は、相同組み換え修復において中心的な役割を果たすタンパクであり、腫瘍組織におけるその発現レベルが、術前化学放射線療法を受けた食道がん症例の予後と相関することが分かっています。
また近年、DNA修復と抗腫瘍免疫が深く関連していることが、次々と報告されています。そこで当科における研究では、RAD51をはじめとする様々なタンパクが関わるDNA修復経路に着目し、DNA損傷後に抗腫瘍免疫を高める因子を明らかにすることで、より効率的な治療法の開発につなげることを目的としています。
④胃癌に対するスタスミン1をターゲットとした新規治療薬の開発
スタスミン1 (STMN1)は微小管を構成するチューブリンに結合し、細胞分裂を促進する機能を有します (左図)。STMN1は臓器横断的に癌細胞に特異的に発現しており、悪性度の増悪や、治療抵抗性を引き起こすとされています。当教室の胃癌を対象とした先行研究においても、STMN1の発現により胃癌治療のキードラッグであるタキサン系薬剤への治療抵抗性が増悪することを明らかにしています。以上より、STMN1の抑制は胃癌の標準治療にの薬効を高める可能性が高く、有望な治療標的であると考えます。一方、STMN1を標的とした治療薬は、後述するRNA干渉の問題点から未だ実用には至っていません。
本研究で注目した化学ゲノム干渉分子ピロールイミダゾールポリアミド (PIP)は任意のゲノム領域に結合することで標的遺伝子発現を制御可能でありながら、RNA干渉のを克服した化合物です (右図)。他癌細胞株を用いた担癌モデルマウス実験においてSTMN1のPIPは腫瘍組織内のSTMN1発現を阻害し、抗腫瘍効果を示すことを確認しています。今後胃癌細胞株における有効性安全性の実証実験を行い、その薬効の評価を行う予定です。
⑤腫瘍環境における成熟TLSが及ぼす影響と化学療法との関連
大腸癌は本邦において罹患率、死亡率の上位であり、切除不能症例、再発症例で既存の抗がん剤に抵抗性を示す難治例の予後は依然として不良です。
TLS(Tertiary Lymphoid Structures)は免疫細胞の集合体で、成熟TLSは抗体産生やT細胞の活性化等、腫瘍免疫の活性化に寄与するとされています。
小細胞肺癌や食道癌等の癌腫ではTLSと化学療法感受性の報告がありますが、大腸癌においては報告が乏しいです。
当教室では大腸癌においてTLSと抗がん剤感受性との関連について研究を行っております。
⑥進行大腸癌におけるトランスフェリン受容体の発現意義
鉄は細胞の増殖と生存に必須な微量元素であり、トランスフェリンと結合して細胞内に取り込まれます。トランスフェリン受容体(TFRC)は、取り込みに際して重要な役割を果たしています。癌細胞は急速に増殖するために多量の鉄が必要であり、正常細胞よりもTFRCの発現を増加させて、鉄の取り込みを促進します。多くの癌においてTFRCの高発現が報告されており、悪性度や進行度と関連していることが示唆されています。当科では、進行大腸癌でTFRCの発現が亢進していることを確認し、TFRCに結合する抗体薬を用いた治療病態を解析しています。
⑦オルガノイド培養技術を用いた消化器がん・消化器疾患の個別化医療法の開発
日本人の死亡原因の第一位はがんであり、その数は増加傾向にあります。人類は100年以上がんという疾患と戦ってきましたが、未だに根治法は確立されていません。当科では、がん患者由来の組織から直接培養する技術であるオルガノイド培養法を取り入れ、患者ごとに適した治療法(個別化医療法)の確立を目指します。当科では群馬大学生体調節研究所・粘膜エコシステム制御分野(佐々木 伸雄 教授)との共同研究として、当科で治療を受けた消化器がん・消化器疾患の患者様から診断および治療上不都合の無いように組織を採取し、オルガノイド培養を行い、がん細胞に見られる遺伝的な変化(genotype)とその環境に対する応答によって生じる形質(phenotype)を統合した解析を進めています。
当科で樹立した大腸癌オルガノイドの一例
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Department of General Surgical Science, Gastroenterological Surgery, Gunma University, Graduate School of Medicine
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