Placeholder image群馬大学総合外科講座 消化管外科学分野

Department of General Surgical Science, Gastroenterological Surgery, Gunma University, Graduate School of Medicine.

■ 研 究 に つ い て

当科の研究について

当科では、治療応用を目的とした問題解決型研究、基礎と臨床の双方向的研究、エビデンスの創出と発信をモットーに、“社会へ貢献できる外科研究”を目標として、診療科一丸となり研究に取り組んでいます。上部消化管外科、下部消化管外科それぞれで研究テーマを設定し、臨床研究、基礎研究に従事しています。研究グループでのウィークリー・リサーチカンファレンスに加え、総合外科全体における大学院セミナーや定期的な研究会を行うことにより、質の高い研究推進に努めています。また、得られた研究成果は、国内外での学会発表、さらには質の高い国際誌において論文発表できるよう、努力しています。



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Placeholder image上部消化管外科

研究の背景
食道がんは他の消化器がんと比べ発症率は高くないものの、5年生存率は40-50%と予後不良な悪性腫瘍です。また胃がんは5年生存率は60-70%と治療成績は比較的良好なものの、本邦では依然として死亡数、罹患数ともに多い疾患であり、共にさらなる予後の改善が求められる疾患と言えます。さらなる予後および治療成績の改善を目指して、基礎研究、臨床研究をさらに充実させ、新たな治療の開発も積極的に行っていく必要があると考えています。

上部消化管 主な研究テーマ一覧

臨床研究食道がん患者における慢性炎症と骨格筋量減少の関連についての研究
食道がん患者における治療前握力と化学療法、化学放射線治療の成績との関連
胸部食道がん対するDCF-RTの長期成績
切除不能進行再発食道がんに対するDNF療法の有効性に関する検討
食道胃接合部がんの臨床病理学的特徴の解析および治療戦略の検討
食道がんにおけるFAMT-PET診断の有用性に関する研究
革新的治療ツールを利用したがん微小管ダイナミクス制御による消化管がんの克服
腹腔鏡下胃がん手術における術後合併症のリスク因子の検討
進行・再発胃がんに対するNivolumab療法の治療成績とその臨床病理学的特徴の検討
胃がんNivolumab使用症例における治療感受性バイオマーカーの研究
VOYAGER Study「切除不能進行再発胃がんを対象としたニボルマブ早期導入の有効性と安全性を評価する単群II相試験」
基礎研究
消化管がんに対するリポソーム化microRNAを用いた革新的治療の開発
接着分子コネキシン26に着目した胃がん制御研究
成犬を用いた甲状腺機能における消化管運動と生理活性物質の解析
PET検査を利用した食道がん局所免疫状態の評価に関する研究
食道類基底細胞がんの発がん起源に関する研究
放射線照射と腫瘍免疫に関する研究

研究内容
①多機能受容体CD36の食道扁平上皮がんにおける臨床病理学的意義と機能の解明
がんの治療法は大きく局所治療および全身治療に分けられ、全身の複数臓器へ転移した場合、 制がん剤による全身治療が中心となります。食道がんにおいても、種々の制がん剤治療が開発、臨床応用されていますが、その成績は満足できるものではありません。制がん剤耐性獲得のメカニズムは単純ではありませんが、その一つに抗ストレス耐性獲得のためのがん細胞の転写翻訳や代謝系の変化が関連しています。CD36は、長鎖脂肪酸の細胞内への取り込みを促進し、脂肪酸β酸化によるエネルギー産生に寄与しますが(図1)、ヒト口腔扁平上皮がんにおいては、CD36を抑制することで転移が有意に減少することが報告され、さらにがん細胞が転移のエネルギー源として脂肪酸を消費することも報告されています。我々はこれまで食道がん細胞株を用いた検討で、CD36発現抑制とともに、β酸化関連律速酵素のCPT1、LCADの発現が抑制され、またCD36抑制細胞では浸潤、増殖能ともに有意に低下することを確認しています(図2)。本研究では、食道がんにおけるCD36の役割を明らかにするとともに、がん細胞内の代謝系の変化に着目し、これまでの制がん剤と異なる機序による新規治療法開発を目的としています。

図1. 脂肪酸代謝経路

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図2. CD36抑制による脂肪酸代謝酵素の変化

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②革新的治療ツールを利用したがん微小管ダイナミクス制御による消化管がんの克服

食道がんを含む消化管がんはリンパ節や遠隔臓器に容易に転移しうるがんであり進行がんで発見される症例も少なくありません。食道がんの化学療法に関しては5FU+シスプラチンが標準治療として使用されていますが、タキソテールやパクリタキセルなどタキサン系薬剤も食道がん治療にとって重要なkey drugの一つです。しかしながら効果を認めない症例も多く、新たな治療ツール開発はさらなる予後改善の為にとても重要と考えています。我々は微小管を不安定化するStathmin 1 (STMN1)に注目し、術前治療として化学放射線治療を行った後に手術を施行した症例では、STMN1の過剰発現症例で有意に予後不良であることなどを報告してきました(下図)。


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このSTMN1を抑制するために、ピロールイミダゾームポリアミド (PIP)化合物を使用した研究を行っています。PIP化合物はRNA干渉の弱点である、生体内での不安定性、デリバリーの問題を克服した新規抗がん化合物(右表)であり、標的遺伝子発現を特異的に抑制することが可能であることから有望な新規治療ツールの候補として期待されており、食道がんに対する有望な治療ツールとなると考えています。


③細胞接着分子に注目した胃がん進展機序の解明
コネキシンはギャップ結合を構成する基本分子であり、がん研究におけるコネキシンの作用として細胞増殖抑制、原発巣からの離脱や浸潤抑制、血管外遊出の制御などの可能性が注目されています。がんの悪性化の要因の一つであるがん転移に関しましては、これまでにも様々な分子機序が報告されてきました。特に上皮系から間葉系へと形質転換する現象である上皮間葉転換 (Epithelial Mesenchymal Transition: EMT)は、がんの浸潤・転移と密接な関与が知られております。そのEMTを引き起こす因子として、Wnt/β-catenin経路、TGF-βシグナル、Notch、 Hedgehogシグナル、低酸素、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の関与が報告されています(図1)。当科における研究では、コネキシンとEMT誘導因子との関連について研究を進めており、これまで明らかになっていなかったコネキシンの胃がん発生及び進展における機能を解析することで、これまでにない新たな分子機序を解明することを目指し検討を行っています。


図1

Placeholder imageBiaoxue R et al.Stathmin-dependent moleculartargeting therapy for malignant tumor: thelatest 5 years’ discoveries and developments. J Transl Med 14:279, 2016




④成犬を用いた消化管運動の解析
われわれは伝統的に、成犬にフォーストランスデューサーを装着し(図1)、消化管運動や消化管ホルモンの研究に従事し、発表してきました。具体的には、幽門側胃切除術において迷走神経腹腔枝を温存すると十二指腸以下の消化管運動およびインスリン分泌が保持されることや、シスプラチンによる消化管異常収縮に対する六君子湯の抑制効果とグレリンの関係、またInterdigestive migrating contractions (IMC)に着目し(図2)、PhaseⅢ(強収縮)を誘発するモチリンはグレリンにより作用拮抗されることなどを発表してきました。現在は確立した実験形態や設備・環境を活かし、甲状腺機能に着目した消化管運動や消化管ホルモンの解析や、漢方薬を使用した解析研究などを行っています。

図1

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図2

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Placeholder image下部消化管外科

研究の背景
下部消化管領域においては大腸がんを中心に小腸がん、炎症性腸疾患、肛門良性疾患、腹壁疾患などの治療に従事しています。我が国において依然としてがんによる死亡率は増加しており、死因のトップになっています。全国がん登録(2016年)では、大腸がんの罹患者数は各種がんのなかで1位であり、死亡者数においても2位となっています。小腸がんは稀ではありますが、早期発見が困難であり進行した状態で発見されることが多いがんです。また近年、炎症性腸疾患の罹患者数は増加の一途を辿っており治療が必要な患者さんの数は増える一方です。このような下部消化管領域の疾患に対して診断、治療を行うだけでなく、さらなる治療成績の向上を目指して過去の治療成績の検討を行ない、新たな治療方法の検討・開発を行っております。またこれらの疾患は病態が未だ解明されていない部分も多く、より深い病態の解明と新規の治療標的の発見が待たれています。こうした様々な課題に対して全国規模の他施設共同研究や当科独自の基礎研究や臨床研究に取り組んでおります。


下部消化管 主な研究テーマ一覧
臨床研究

腹腔鏡下直腸がん術後性機能障害に関する多施設前向き観察研究:LANDMARC試験

右側結腸がんのリンパ節郭清に関する多施設観察研究:MEIRT-RC
腹腔鏡下直腸切除における技術認定医手術参加の有用性に関する検討:EnSSURE試験
根治的外科治療可能の結腸・直腸がんを対象としたレジストリ研究:GALAXY trial
血液循環腫瘍DNA 陰性の高リスクStage II 及び低リスクStage III 結腸がん治癒切除例に対する術後補助化学療法としてのCAPOX 療法と手術単独を比較するランダム化第III 相比較試験:VEGA trial
再発危険因子を有するStageⅡ大腸がんに対するUFT/LV療法の臨床的有用性に関する研究(JFMC46-1201)
Stage Ⅲ結腸がん治癒切除例に対する術後補助化学療法としてのmFOLFOX6療法またはXELOX療法における5-FU系抗がん剤およびオキサリプラチンの至適投与期間に関するランダム化第Ⅲ相比較臨床試験
(JFMC47-1202-C3:ACHIEVE Trial)
再発危険因子を有するハイリスクStageⅡ結腸がん治癒切除例に対する術後補助化学療法としての mFOLFOX6療法またはXELOX療法の至適投与期間に関するランダム化第Ⅲ相比較臨床試験
(JFMC-48-1301-C4:ACHIEVE-2 Trial)
鼠径部ヘルニアに対する腹臥位鼠径部除圧下CTの有用性に関する検討
転移再発大腸がんに対する集学的治療の治療成績の検討
大腸がんの治療に対する医療画像技術の有用性と安全性に関する検討
局所進行大腸がんに対する治療成績と予後予測因子の検討
小腸がんに対する治療成績と予後予測因子の検討
MRIとFDG-PETによる直腸がん画像診断と再発および予後予測における検討
StageⅡ/Ⅲ大腸がん治癒切除例に対するUFT/LV療法とPSK併用UFT/LV療法の無作為化比較試験:GOSG-C03
基礎研究 大腸がん細胞に甲状腺ホルモン代謝がもたらす影響の検討
メトホルミンが大腸がんに及ぼす影響
炎症性腸疾患とその発がんについて
消化管腫瘍における新規腫瘍マーカーの探索
colitic cancerにおけるDNA2重鎖切断修復に伴うPD-L1発現の意義
肝転移を有する大腸がんにおける STMN1の検討
大腸がんの発がん過程におけるSTMN1発現についての研究
大腸がんにおけるcircular RNA発現意義に関する検討
骨髄移植患者の固形がんの発生・進展および創傷治癒に関する研究
大腸がんにおける腫瘍免疫と関連する分子生物学的因子の検討
アミノ酸輸送蛋白:LAT1とその関連蛋白の発現状況と大腸がんの臨床病理学的因子、
薬剤耐性と治療効果および予後の検討
β2AR蛋白の発現状況と大腸がんの臨床病理学的因子、薬剤耐性と治療効果および予後の検討

研究内容
①colitic cancerにおけるDNA2重鎖切断修復に伴うPD-L1発現の意義
colitic cancerは炎症性腸疾患などの長期に慢性炎症が持続する病態を起因として発生した稀ながんです。通常の大腸がんと発がん機序が異なると報告されています。また近年のがん免疫療法の進歩は著しく、免疫チェックポイント阻害薬は複数のがん腫において腫瘍免疫反応の活性化と高い抗腫瘍効果が示されています。慢性炎症によって生じるDNA損傷の蓄積がこの発がんに関与するとされ、その一つにDNA2重鎖切断があります。DNA2重鎖切断が多く発生する炎症性発がんにおいて、その修復応答によって起こる免疫チェックポイント蛋白であるPD-L1の発現機序に関して研究を進めております。colitic cancerにおけるPD-L1の発現は、免疫チェックポイント阻害薬の有効性を秘めています。



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②大腸がん肝転移に対する新たな治療ツールの開発
大腸がんの肝転移の場合、原発巣および転移巣を切除することによって長期生存を目指すことが可能であるとされています。しかし、肝転移切除術後の再発率は高く、切除のみで根治できる症例ばかりではないことから、予後改善を目的とした新規治療ツールの開発が必要とされています。本研究では、細胞分裂に関与している微小管の脱重合を促進するスタスミン (STMN)ファミリー (STMN1, STMN2, STMN3, STMN4)蛋白に着目しています。特にSTMN1はこれまで様々な固形がんで腫瘍増殖、抗がん剤耐性、予後不良に関わる予後予測マーカーとして報告されています。また、STMN1を抑制することで増殖抑制、抗がん剤感受性が改善することも明らかとなっています。肝転移を有する大腸がんにおけるSTMNファミリーの発現意義について検討を行い、生存期間ならびに治療効果の予測に有用であるかを検討しています。さらに、STMNファミリーを制御する治療戦略が大腸がん肝転移巣に与える影響についても担がんモデルマウスを用いて解析する計画もあります。本研究により大腸がんの肝転移症例の予後を改善する新たな治療ツール開発につながることが期待されます。

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Placeholder imageRong B et al.Stathmin-dependent Molecular Targeting Therapy for Malignant Tumor: The Latest 5 Years' Discoveries and Developments.J Transl Med;14(1):279, 2016
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